ドラムブレーキ オーバーホール② 組立・調整
グリス塗り
ブレーキシューとバックプレートなどの摺動部分にグリスを薄く塗ります。
細かい話をすれば、金属同士が擦れる部位には全てグリスを塗ることになると思いますが、以下に示す計11ヶ所には、必ず薄くグリスを塗ります。
- ブレーキシューとバックプレートとの接触部分6ヶ所
- ホイールシリンダーとの接触部分2ヶ所
- バックプレートのアンカー部2ヶ所
- ブレーキワイヤーとバックプレートの接触部分1ヶ所
塗布するグリスはドラムブレーキ専用のものを使用します。
スミコー モリラバーグリス PGM-100
ブレーキ組み立て
取り外した各部品を、逆の手順で組み付けて行きます。
サイドブレーキワイヤーをパーキングレバーに取り付けます。
パーキングレバーが付いているブレーキシュー(トレーリングシュー)が後退方向、何も付いていないブレーキシュー(リーディングシュー)が前進方向になるようにスプリング②を取り付けます。
アジャスターは、ドラムブレーキを調整する時に必ず回すことになるので、ネジ部と接合部にグリスを薄く塗って組み立てます。
ネジは、後述するシュークリアランス調整で緩めていくので、最後まで締めておきます。
トレーリングシューを先にホイールシリンダー・ピストンの溝に組み込み、アジャスターを正確に挟み込みます。
アジャスターとシューの間に隙間が出来易いので、よく確認します。
先にホイールシリンダーのピストンの溝に、下から滑り込ませる様に取り付けるとシューを固定できます。
それから、シューの下側を開いてアンカー部に挿し込むと楽です。
バックプレートの裏からシューホールドピンを挿し、前からシューホールドスプリング、スプリングリテーナーを取り付け、ブレーキシューを固定します。
特に気を付けるのが、アジャスター部分です。
ブレーキシューの取り付け位置にきっちり正確に挟み込みます。
ドラム装着後、バックプレートの裏からこのアジャスターのカム(ネジの部分)を回すとアジャスターが長くなり、ブレーキシューが押されて広がることによって、シューのライニングとドラムとの隙間をギリギリまで小さくしていくので、正確にセットされていないと作業できなくなります。
アジャスターレバー、スプリング③、スプリング①を取り付けて組み立ては終了です。
特にスプリング①を引っ掛ける作業は、画像の形状の工具が無いと絶対無理だと思います。
スプリング①はフックを掛ける場所を考えないとアジャスターレバーの溝にハマりません。
どの取り付け作業も順番は特に決まってはいませんが、基本、取り外した順の逆になるはずです。
アジャスターレバーがカムにしっかりセットされているかどうか確認します。
この部分が外れていると、調整時にカムがロックされません。
シュークリアランス調整
ドラム装着後、アジャスターを回転させて、ブレーキシューのライニングとドラムとの隙間(シュークリアランス)をギリギリまで小さくしていきます。
シュークリアランスが大きい状態でブレーキペダルを踏んだ場合、ライニングがドラムに到達して回転を制動するまでにタイムラグが生じ、一瞬遅れてブレーキがかかるため危険です。
そのため、ライニングがドラムにほぼ接触した状態までクリアランスを小さくしていきます。
バックプレートにはクリアランス調整用の穴があり、ゴム製のホールプラグでフタがされています。
このホールプラグを外して、プレートの裏側からマイナスドライバー等を入れてアジャスターのカムを動かし、シュークリアランスを調整します。
この作業は、何度やっても慣れません。
ドラムを装着してからの作業なので、目で確認しながら作業することが出来ないからです。
ドラムをはめ込む前に、裏の穴からマイナスドライバーを入れて、アジャスターのカムに引っ掛けて回していく練習が必要です。
左右の車輪共に、カムは下方向へ回転させます。
アジャスターのカムを回すと「カチッ」と音が1回します。
これでアジャスターが少しだけ長くなり、シュークリアランスが小さくなります。
また、カムはアジャスターレバーによってロックされ、アジャスターは逆方向には戻りません。
マイナスドライバーでの作業だとカムが傷ついて最終的には回せなくなりそうです。
出来れば専用工具を使う方が安全です。
カムの位置と、カムを回転させる動作を体に覚えこませたら、いよいよドラムをはめ込み、ハブナットを規定値で締めつけます。
ハブボルトの締め付けトルクは84±14N・m。
この値より強く締めると、ドラムに取り付けられているベアリングを破壊する可能性があります。
この値より弱く締めると、ボルトが緩んで走行中に車輪が外れる可能性があります。
潔くトルクレンチを使って、正確な値で締め付けましょう。
トルクレンチ セット アルミホイール対応薄型ディープソケット付 BAL
シュークリアランス調整方法
- サイドブレーキを何度か上げ下げして、ブレーキシューをドラム中央部に移動させる。
- サイドブレーキを解除した状態に戻し、再びドラムを回転させ、摩擦音のしないことを確認。
- ドラムを回転させながら、摩擦音がするまでアジャスターのカムを回す。
- 1~3の作業を繰り返す。
ドラムを回転→摩擦音の有無を確認→サイドブレーキを引いて戻す→アジャスターのカムを回す、を繰り返して、サイドブレーキを引いてドラムを回転させても摩擦音がするまで同じ作業を続けます。
ドラムを手で回転させ、ブレーキシューとドラムが「シュー」と摩擦音がすれば作業は終了です。
初期の段階では、摩擦音がしても、サイドブレーキを上げ下げしてドラムを回すと音が消えるので、アジャスターのカムを回してクリアランスを小さくしていきます。
ただし、カムを回し過ぎると、ブレーキシューが完全にドラムに押しつけられた状態になり、ドラムが回転しなくなってしまいます。
こうなると最初から作業し直すことになりますが、ドラムを引き抜くことが出来なくなるので要注意です。
ドラムブレーキの分解・組み立ては、仮に何も知らなくても、そこまで難しくはないと思います。
自分にとって1番難しかったのは、シュークリアランス調整でした。
サイドブレーキを引いていれば、アジャスターが自動的に動いて調整してくれるそうですが、自分の車では、いくらサイドブレーキを引いてもカチカチ音がするばかりで、シュークリアランスが一向に小さくなりませんでした。
この作業は、自分でカムを回して調整した方が早いし確実だと思います。
最後はセンターキャップをはめてホイールを取り付けて終了です。
センターキャップのはめ込みは、塩ビパイプTS40のモノがピッタリ合います。