ドラムブレーキ分解
重要保安部品
ドラムブレーキは、「ドラム」と呼ばれる、車輪と一体になって回転する円筒形の部品に、内側から摩擦材を押し付けることによって、車輪の回転を制動する装置です。
乗用車では、後輪のブレーキに多く用いられています。
重要保安部品に指定されていて、車検毎にドラムを取り外して点検・整備を行うよう義務付けられています。
ドラムブレーキを点検するにはドラムを外す必要があり、その構造が比較的複雑であるため点検・整備を行うには十分な知識が必要になります。
細かい仕様は各自動車メーカによって差はありますが基本構造は同じです。
ここでの解説は、他の軽自動車に乗っていても十分参考になると思います。
ドラム取り外し
タイヤを外すため、後輪はジャッキアップしておきます。
ジャッキアップについては、ジャッキアップポイントを参照。
サイドブレーキがかかっていると、リアブレーキがかかったままの状態なので、サイドブレーキは解除しておきます。
リアハブナットには水等の侵入を防ぐためにキャップが被せられています。
細いマイナスドライバーを隙間に挿し込んでプラスチックハンマーで軽~く叩き、場所を変えながら隙間を広げて取り外します。
リアハブナットは割ピンで固定されているため、工具を使って割りピンを抜き取ります。
割りピンはステンレス製で思ったよりも固く、抜くのに時間がかかってしまいました。
引き抜いた割りピンは変形して、再使用できないので新品に交換です。
鉄/三価ホワイト 割ピン軸径3×30 【 バラ売り : 10個入り 】
割ピンのサイズは軸径3mmで長さ30mmになります。
ユーザー車検するので、ある程度まとめ買いしました。
リアハブナットには、規定の締め付けトルク値が指定されています。
…が、元に戻す時にナットを締め付け、さらに割ピンを挿し込める位置まで回す必要があるため、実質的にナットを元の位置まで締め戻せば、指定締め付けトルク値の範囲内にあることになります。
ハブナットを外す前にマーカーペンであらかじめ印を付けておき、ナット取り付け時に同じ位置まで戻せば、締め付けトルク値を知らなくても規定値の範囲内で締め付けることが出来ます。
ハブナットのサイズは22ミリです。
そこまで大きなトルクで締め付けられてはいませんでしたが、短いレンチで外せるような箇所ではないのでスピンナーハンドルを使います。
PWT 1/2インチ 12.7mm スピンナーハンドル 590mm
ハブナットにはワッシャーが噛まされているので、失くさないように保管しておきます。
ドラムをそのまま手前に引いて外します。
ドラムが外れない場合、原因はドラムに固着があったり、ブレーキシュー(ブレーキ部材)がドラムにピッタリ張り付いている等が考えられますが、ド基本のサイドブレーキ解除し忘れがあるので、もう1度確認します。
ドラムが外れると、バックプレートが姿を現します。
ドラムの内側のブレーキシューとの当たり面の摩耗具合をチェックします。
バックプレート周辺はブレーキダストで黒くなっているのでエアダスターで清掃しておきます。
この後、分解しないでドラムを取り付けて終了するならば、塗布したグリスが流れ落ちてしまうためパーツクリーナーの使用は禁物です。
ドラムブレーキのチェック
ブレーキを分解する前に、どの部品がどこに取り付けられているか確認しておきます。
主要部分は、車両前方方向に取り付けられているリーディングシュー、反対側のトレーリングシューの2つのブレーキシューと、これらを作動させるためのホイールシリンダーで構成されています。
その他に、リアブレーキアジャスターや各スプリングなどの、ブレーキシューを作動させるための補助部品が数点あります。
分解にはホイールシリンダー以外の部品はすべて取り外すことになります。
組み立てる時のために写真に撮っておくと良いでしょう。
特に、アッパーブレーキシューリターンスプリング、ロアーブレーキシューリターンスプリング、パーキングレバースプリングの3本のスプリングが掛けられている位置は非常に重要です。
ブレーキシューを固定するための、板バネになっているシューセットスプリングの取り付け位置については問題ないと思います。
チェック項目は大雑把に3つです。
- ブレーキシューのライニング残量
- 各部品の取り付け状態・損傷の有無
- ホイールシリンダーからのブレーキフルード漏れ
取り敢えず、ドラムブレーキの状態を目視でチェックします。
ブレーキシューのライニング残量の限度は1~2ミリです。
リアブレーキはフロントブレーキに比べてブレーキ時にかかる荷重が少ないため、ブレーキシューの消耗はフロントブレーキパッドのものよりも少なくなっています。
新品のブレーキシューのライニングは5ミリ程度で、フロントディスクブレーキパッドの半分になっています。
ブレーキシューのライニング残量を測ってみると3ミリ強あり、全然問題ありません。
各部品の取り付け状態・損傷も問題ナシ。
続いて、ホイールシリンダーのブーツをめくってピストン周辺の状態をチェックするのですが、左側のブレーキシューが湿って色が違っています。
この時点でブレーキフルード漏れほぼ決定です。が、前回メンテナンスした人が塗ったグリスの量が半端なく、そこらじゅうにグリスが塗りたくられているため、フルード漏れによるものなのか、グリスの付着によるものなのか判断が付きませんでした。
ホイールシリンダーのブーツをめくってピストン周辺の状態を見てみます。
多量のグリスに混じって、うっすらと液体のようなものが見受けられたので、ブレーキフルード漏れと判断しました。
各部品の取り付け状態、ライニング残量、フルード漏れのチェックは車検項目に記載があるので、必ずドラムを外してチェックすることになります。
修理工場によっては、上記3項目に問題が無ければ、このままドラムを装着して終了となる場合がありますが、車検に通すことを目的としているならば、別に手抜きとは言い難いと思います。
車検を依頼する側からすれば、ブレーキを分解して隅々までチェックしてもらいたいのでしょうが…。
ドラムブレーキ分解
分解方法に正式な順序があるかどうかは知りません。
楽な取り外し方はあると思いますが、3本のスプリングのどれから外しても大差ないような気がします。
人力で壊せるようなヤワな部品は使われていないので、部品破損の心配はありませんが、下手な外し方をすると各スプリングの張力によって思わぬ事故を誘発しかねません。
私はアッパーブレーキシューリターンスプリングから外しています。
スプリングは素手で外すのは絶対に無理なので、ピックツールを使って外します。
スプリングを外す前に、掛けられていた位置を覚えておきます。
慣れているので素手で作業していますが、軍手を装着した方が良いです。
続いて、ロアーブレーキシューリターンスプリングを外します。
このスプリングは、ブレーキシューの下部をアンカーに固定しているものです。
3本のスプリングのうち、このスプリング外しが1番力を必要としました。
スプリングを外すよりも、アンカー部にかけられているブレーキシューを開いて外した方が簡単かもしれません。
こちらも、スプリングが掛けられていた位置を覚えておきます。
パーキングレバースプリングを最後に外しました。
これはブレーキシュー後ろに連結されているリアパーキングレバーを固定するためのスプリングになります。
このスプリングを最初に外しても良かったようにも思いました。
ブレーキシューは、バックプレート裏側から通されたシューセットピンで支えられていて、板バネ状のシューセットスプリングで固定されています。
シューセットスプリングは、シューセットピンの頭の部分をプライヤーで掴んで押し込み、90°回転させれば外すことが出来ます。
プライヤーでは押し込んで回転させる作業が難しいことと、シューセットピンとスプリングを傷めてしまうので、傷つけたくなければ専用工具を使います。
右側のシューセットスプリングが外れた時点で、右ブレーキシューとリアブレーキアジャスターが緩んで外れます。
左ブレーキシューも右側同様に、シューセットピンを回して外します。
シューセットピンを外した瞬間、全ての部品が崩れるように落下します。
右側のブレーキシュー、つまりトレーリングシューはパーキングレバーと連結されていて、さらにパーキングブレーキケーブルが取り付けられています。
ドラムブレーキのオーバーホールならば、ここまで分解すれば十分です。
パーキングブレーキケーブルをグリスアップしたかったので外しました。
ケーブルをパーキングレバーから外すなら、ケーブルのバネを押し上げて外しますが、バネの張力が強く、中々外れません。
ドラムブレーキが完全に分解出来たらパーツクリーナーで洗浄します。
古いグリスが滑るようにごっそり流れ落ちるので、下には新聞紙でも敷いておきます。
取り外した部品もパーツクリーナーで洗浄します。
取り外した部品に問題が無ければ、そのまま部品を組み上げていきます。
ドラムブレーキ オーバーホール② 組立
今回は、ホイールシリンダーからのブレーキフルード漏れを修理しました。
ホイールシリンダー・カップ交換