ドラムブレーキ調整
オーバーホールの最終作業
ドラムブレーキ調整は、ドラムブレーキを組み立てた後に、ブレーキシューとドラム内側のブレーキシューとの当たり面の隙間を小さくする作業です。
ドラムブレーキ調整を行わないと、パーキングブレーキ(サイドブレーキ)レバーのひきしろが多すぎるため、パーキングブレーキがかからない状態になる可能性があります。
したがって、ドラムブレーキをオーバーホールした時には必ず行う必要があります。
車検でも、パーキングブレーキレバーのひきしろは検査項目になっていて、検査官にチェックされるだけでなく、検査場でもパーキングブレーキの制動力がテスターで検査されます。
仕組み
車の免許を持っている人ならば、空走距離という言葉を聞いたことがあると思います。
空走距離とは、ドライバーがブレーキをかけようと思ってからブレーキが効き始めるまでの時間のことです。
空走距離は、さらに「ドライバーがブレーキをかけようと思ってからブレーキを踏む時間」と「ブレーキを踏んでからブレーキが効き始めるまでの時間」に分けられます。
ブレーキシューとドラムとの間には隙間があり、隙間が大きすぎるとブレーキシューがドラムに接触するまでの時間、つまり「ブレーキを踏んでからブレーキが効き始めるまでの時間」が長くなってしまうため、この隙間を小さくする必要があります。
この、ブレーキシューとドラムとの隙間のことをシュークリアランスと言い、シュークリアランスを小さくする作業のことをドラムブレーキ調整、またはシュークリアランス調整と言います。
ドラムブレーキ調整はドラムブレーキのメンテナンスでも特に重要な作業になります。
ここで行う作業は、あくまでもドラムブレーキ側の調整であり、運転席側のパーキングブレーキワイヤーの長さを調整して行う作業とは異なります。
ハンドブレーキの引きしろを調整する時は、先にシュークリアランス調整を行った後でパーキングブレーキワイヤーの長さを調整するのが基本です。
アジャスタースクリューのカムは、下方向に回すとネジが緩む、つまりアジャスターが広がる仕組みになっています。
カムに引っ掛けられているのはアジャスターレバーで、カムが逆方向に回らないようにカムをロックする役目があり、アジャスターレバーが正確にカムに掛かっている必要があります。
画像は左側のドラムブレーキですが、右側は逆ネジになっていて左右どちらのドラムブレーキもカムを下方向へ回すとアジャスターが広がるようになっています。
広がったアジャスターは、ブレーキシューを押し広げ、ブレーキシューはドラムに近づきます。
その結果、ドラムとブレーキシューのクリアランスが小さくなります。
このクリアランスをギリギリまで小さくすることによって、ブレーキを踏んでから実際にブレーキが効き始めるまでの時間を短くします。
ドラムブレーキには自動調整装置が付いていて、シュークリアランスを勝手に調整してくれる云々の話ですが…。
この話、パーキングブレーキを引くと働くとか、バック走行でブレーキを踏むと働くとか、諸説あるようですが、個人的にこの機能が働いた経験をしたことがありません。
なので、自動調整機能は当てにせず、自分で調整しています。
調整作業
実際の作業ではドラムを装着した状態で行うので、目で確認することが出来ません。
ほぼ、手探りで作業することになります。
ドラムブレーキの外から作業するので、アジャスター近くに調整作業用のサービスホールがあり、ゴム製のホールプラグでフタがしてあるはずです。
ミニカの場合はバックプレート裏側にありましたが、プレオの場合はブレーキドラムにありました。
調整作業は、サービスホールの位置をアジャスターの正面になるようにドラムを移動させて行います。
ドラムブレーキ調整作業を始めます。
ハンドブレーキを3~4回引いて戻します。
こうすることで、ドラム内のブレーキシューが中央に寄ります。
手でドラムを回転させ、この時生じるドラムとブレーキシューが「シュッ」と擦れる摩擦音を聴き取ります。
初期段階では摩擦音がしないと思うので、最初はそのままスルーします。
ドラムを止めて、サービスホールから細いマイナスドライバーを挿し入れ、手探りでアジャスターのカムを下に回します。
すると、ドラム内でアジャスターの歯車が1つ動いて、「カチッ」とアジャスターレバーでロックされる音がします。
これで歯車1つ分だけアジャスターが広がり、シュークリアランスが小さくなります。
マイナスドライバーでの作業だと、カムが傷ついて最終的には回せなくなりそうです。
出来れば専用工具を使う方が安全です。
以下の作業を繰り返していきます。
ドラムブレーキ調整作業
- ハンドブレーキを引き戻してブレーキシューをドラム中央に寄せる
- 手でドラムを回転させて摩擦音を聴き取る
- ブレーキアジャスターを回してクリアランスを小さくする
途中段階で摩擦音が聴こえていても、ハンドブレーキを引き戻してドラムを回転させると音がしなくなるので、引き続きアジャスターを回してシュークリアランスをギリギリまで小さくしていきます。
最終的には、これ以上クリアランスを小さくすることが出来なくなるため、ハンドブレーキを引き戻してドラムを回転させても、「シュッ、シュッ、シュッ」と常に摩擦音がする状態になれば調整作業は終了です。
どの程度までクリアランスを小さくしていくかは、個人の判断によると思います。
私はドラム1回転につき摩擦音1回程度で作業を終えています。
「シュッー」と継続して摩擦音が鳴り続けるのは、ブレーキ引きずりの原因になると考え、そこまでシビアに詰めていません。
パーキングブレーキワイヤー調整
ハンドブレーキの引きしろは、パーキングブレーキワイヤーの長さを調整します。
この作業は、前述したドラムブレーキ調整が適正に行われていることが大前提です。
ドラムブレーキを分解する前にハンドブレーキの引きしろに問題無ければ、この作業は必要無いはずです。
組立て・調整作業の後に引きしろに問題があれば、別の箇所に問題がある可能性が高いです。
自分はパーキングブレーキワイヤーの長さを調整した経験はありません。
むやみに触る箇所ではないと思います。
ハンドブレーキのあるコンソールボックスを取り外します。
前方と両サイドそれぞれにプラネジ2本ずつ、後方カドリンクップ置きにネジ1本の計5か所で固定されています。
シートとの隙間が狭いのでシートを外す必要があるかと思いましたが、助手席側サイドのプラネジは外さなくてもコンソールボックスを持ち上げれば外せます。
コンソールボックスをハンドブレーキレバーに上手く通しても外せますが、コンソールボックスは分解することが出来ます。
パーキングブレーキワイヤーはハンドブレーキイコライザーに固定されています。
ナットを緩めてハンドブレーキイコライザーを前後に動かし、ワイヤーの長さを調整することが出来るようになっています。
引きしろが多い場合はナットを締め、少ない場合は緩めます。
どの車も、遊びが3~5ノッチくらいが平均で、詰めすぎると常にサイドブレーキがかかった状態になるので要注意です。
構造上、左右のワイヤーを別々に調整出来ないようで、ハンドブレーキイコライザーがどちらかに傾いていれば、ワイヤーが伸びてしまっている可能性があります。